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秋葉原から世界中へ未来を彩る『モノづくり』
~技術と創造の融合~

取材先DMM.make AKIBA
ニュービジネスチーム

舞台は、モノづくりの街「秋葉原」――。戦後の家電ブームで日本一の電気街にまで成長を遂げ、現在では、アニメやゲームといった文化の聖地へと変貌を遂げている。この商業と文化が融合した街で、モノづくりや起業家を支援するのが「DMM.make AKIBA」だ。同社はモノづくりに特化した「コワーキングスペース」の提供などを通じて過去には、人気の家庭用ロボット「LOVOT(らぼっと)」の生みの親で「GROOVE X」創業者、林要さんなど数多くの起業家を輩出し注目を集めた。モノづくりのすべてがそろうこの地に一体何があるのか。何故、秋葉原でなければならないのか。新たな文化が生まれる街には必ずワケがある。秋葉原が生んだニュービジネスとその核心に迫る――。

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※DMM.make AKIBAは、2024年4月30日をもって施設運営を終了することを発表しました。本記事は、2023年10月に取材した内容を基に、作成しております。

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#01

『モノづくり』のためのコワーキングスペースについてコワーキングスペースを作った背景や秋葉原で利用できる利点はどのようなものだろうか。

そもそも、 DMMさんは、何故「コワーキングスペース」を始めたのでしょうか?

木下さん

DMM.comでは3Dデータを3Dプリンターで出力代行する「DMM3Dプリント」という事業を行なっていました。その中で「実際の製品を製作したい」というニーズが出てきたことから「モノ作りができるリアルな場」としてDMM.make AKIBA構想が持ち上がりました。
また、当時は個人がプロダクトを開発から販売するまでのトレンド「メイカームーブメント」が活発になっており、海外ではモノづくりに特化したシェアスペースの普及が進んでいました。誰もがプロダクト開発を行える環境を整え、日本でのメイカームーブメントの先駆けとなるべく、さくらインターネットの創業メンバーである小笠原治さん、Cerevoの創業者である岩佐琢磨さんが発起人となり、DMM.com会長の亀山敬司と共同でモノづくり施設の提供を目指しました。
そうして誕生したのが「DMM.make AKIBA」というハードウェアスタートアップを支援するモノづくりコワーキング施設です。

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DMM.make AKIBA 広報担当
木下瑠菜さん

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では、なぜ「秋葉原」という場所で設立されたのですか?

木下さん

秋葉原には、電気街という最新のガジェットを確保しやすいエリアがあるため、ハードウェアに興味・関心がある方が集まりやすいんです。そこで、秋葉原をハードウェアスタートアップの聖地にしたいという思いで設立したと聞いております。

千代田区内にはたくさんのコワーキングがあると思うのですが、競合他社との違いについて教えてください。

木下さん

大きく分けて2点あります。
1点目が「モノづくり」ができるコワーキングスペースという点です。モノづくりの設備が揃っているコワーキングスペースがそもそも多くはないので、そこが強みかなと思います。
2点目が「コミュニティ」ですね。会員さん同士のコミュニティが活発なのが特徴です。先輩が技術や知識を教えたり、仲間同士で情報をシェアして助け合うみたいな「文化」が出来上がっています。お互いに持っている知恵や知識、技術を教えあったりする、風通しの良い雰囲気っていうのがうちにはあって、それを気に入って継続利用されている方もいらっしゃいます。単なるモノづくりの場ではないことが、ほかのコワーキングスペースにはない魅力だと認識しています。
また、そのような「文化」が積極的にはぐくまれるような仕掛けづくりもしています。一般的なコワーキングスペースって、個々が作業する場になっていると思うんです。
しかし、DMM.make AKIBAの場合は、会員さんたちが交流したり、互いの取り組みを理解できるようなイベントを数多く企画することで、会員同士のコミュニケーションのハードルを下げています。例えば、自分のプロダクトや活動を発表できるピッチイベントや展示スペースの提供、みなさんで飲みながら話ができる場などです。

先日、私たちも参加させていただいた9周年イベントみたいな、立食パーティーのようなことですね。

木下さん

そうですね。できるだけ、我々スタッフが介さなくても、会員さん同士が気軽にお話できるような環境づくりを心がけています。
DMM.make AKIBA 9周年イベント

私たちがそのイベントへ伺ったときにも風通しのよさを感じました。みなさん仲が良いなという良い印象を受けました。続いての質問ですが、DMM.make AKIBAは、御社の他事業との関係はありますか?

木下さん

他事業との関わりはあります。DMM.comが提供しているサービスは非常に幅広く、60以上の事業部が存在します。事業部は異なりますが、もちろん親和性があるとなれば、いろいろ組んでみたいという気持ちがありますし、実際に連携した実績もあります。そういった協力や連携は今後もあると思います。

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#02

DMM.make AKIBAに入居している企業にインタビュー次に、『モノづくり』を実際に経験され入居している方に伺った。

では続きまして、DMM.make AKIBAに入居している企業の代表として、福田さんにお伺いします。福田さんが、自社の入居先としてDMM.make AKIBAを選んだ理由を教えてください。

福田さん

弊社は、モノづくりの企業ではあるのですが、実は今まで一切モノづくりをしたことがありませんでした。そんな弊社がDMM.make AKIBAを活用させていただいている理由としては、テックスタッフさんやコミュニティマネージャーさんに気軽に相談できるというところでした。作りたいモノはあってもどのようにつくればいいのか、0から話を聞いてくれたり、アイデアベースでもみんな相談に乗ってくれたりする点が、他のコワーキングスペースにはなかったので、そこが1番重宝させていただいています。

CreativePocket株式会社 代表取締役 福田慎也さんの画像

CreativePocket株式会社 代表取締役
福田慎也さん

製品開発にあたり、苦労した話やエピソードはありますか?

福田さん

商品をつくるとき、例えばこの「ベビパシャ」をつくる時もそうですが、事業開発って、ものをつくるだけじゃなくて、つくって世の中に出すことまで考えなければいけないことに気づきました。そのときに、相談できる仲間がいる、いろんな分野の専門家がDMM.make AKIBAにはいてくれたので、それはとても助かりました。私自身も全然モノづくりに詳しくなくて、アイデアはあるけど、どうやってつくればいいのかというのは机上の空論でしかなかった。いろいろな専門家がいて、スマホのアプリケーションをつくる人、デザインする人、基板設計をする人、構造設計をする人…そういったクリエイティブな要素がいくつも分かれていること自体も知りませんでした。なので、何かをつくろうと思っても、何からしていいか分からない。そんな時に、テックスタッフさんが、順序立てて説明してくれました。ほんとにアイデアベースで、0からだったけど、どこからやったらいいのか、1から教えてくれたっていうのがとても助かりました。そういう仲間たちがいたのが有難いことでした。

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同社開発の「ぷにっとおててメモリー®」や
「ベビパシャ®」

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#03

ターゲットにしているお客様像やメディアについてDMM.make AKIBAでは、どのように広告戦略を行っているのだろうか。再び木下さんにインタビュー。

新規顧客獲得の為に、広告や宣伝などはどのようにしているのでしょうか?また、イベント事業はどのように企画していますか?

木下さん

会員さんとのヒアリング等から課題を見つけ、どうすれば解決できるかを掘り下げて企画をしています。イベントの内容は、会員同士の交流が生まれるものなどです。たとえば弊社施設の機材を利用されている方で、「ここまではわかるけど、ここからどうやってスキルアップしたらいいのか分からない」「自分で調べるのが大変…」という方がいらっしゃったので、機材利用のスキルアップが出来るイベントを企画しました。また、自分たちのつくっているものや活動を発表できるようなピッチや展示などをイベントの中に組み込んで、サービスや製品の認知につなげる企画もしています。他の人からアドバイスがもらえる場になればという思いで企画しています。

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学生や若者向けのアプローチはされていますか?

木下さん

若者向けという名の付くものはないのですが、たとえば利用料金を学生の方でも利用できるような金額設定にしています。

それでは、学生に向けて今後どのようなイベントをしたいですか?

木下さん

国でもスタートアップ事業の支援を掲げていますし、弊社でもその点において学生の力は大きいものがあるなと考えています。よりよい社会にしていける発想力など、柔軟な思考をお持ちなのかなと考えていますので、今後もしできるならば、学生のアイデアを事業にも活用していけるか検討したいと思っています。私の一存では決められるものではないですが、学生のアイデアを活かして企業にとってもそれを新規事業に活かせるようなイベントをしたいです。

学生に向けての宣伝などはしていますか?

木下さん

一番使うのは、「X」(旧Twitter)です。ただターゲットをどこに絞るか、誰に伝えたいのかによってSNSでも使うものも変わってくると思います。ビジネスパーソンに伝えるのであればFacebookを利用したりもしますが、とはいえ皆さん何か検索するとなれば、まずXを使うことが多いと思います。層の幅を考えるとまずは「X」メインで使うようにしています。ただ、学生の方にアプローチしようと思ったら、勿論それだけでは足りないので、学校に出向くというアプローチも必要だと考えると同時に、フライヤーなどを学校に置いてもらったりするべきだなと考えています。

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#04

DMM.make AKIBAの「ブランディング」戦略について何かブランディング化のために行っていることはあるのだろうか。

DMMさんのSDGsのページにて、DMM.make AKIBAのことを「国内外からスタートアップをはじめ、中小・大手企業が集うビジネス拠点。コワーキングスペースとプロ仕様の機材でプロトタイピングから製品化までを可能にするシェアファクトリーから構成された総合型モノづくり施設。社会課題を解決することを目的としたスタートアップの支援なども展開中」と紹介されていますが、具体的にどういうことを行っているのか教えてください。

木下さん

大きく2つございます。1つは、技術サポートで、もう1つは、ビジネスサポート。大きく分けてこの2つです。技術サポートに関しては、ちょうど福田さんからもお話があったように、経験豊富な技術スタッフがうちに常駐しておりますので、いつでも機材の使い方とか、技術のご質問を受け付けられるような体制を整え、ハードウェア開発の相談ができます。初心者の方でもわかりやすくお伝えできる体制なので、他とは違う非常に良い点だと思います。次のビジネスサポートですが、テックスタッフの他に、コミュニティマネージャーという役割の者がいます。事業拡大のための課題のヒアリングをさせていただいて、ビジネスマッチングやPRサポートのほか、資金調達・協業先への相談サポートの窓口になっています。

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福田さんのお話にあったように、コミュニティがDMM.make AKIBAの魅力と思っている方が多く、イベントにもっと人を呼んで盛り上げたいという意見もあるようですが、ブランディング強化のために今後どうしていきたいでしょうか?

木下さん

まだまだ情報発信の量が足りていないと考えています。情報社会なので、いかに埋もれず上質な情報を、使いたい人に伝えるかがブランディング戦略やマーケティングにつながってくると思いますので、そこの見極めをしっかりしてわかりやすく伝えていきたいです。たくさんの方々へ伝わるよう、計画的に情報発信することが重要だと考えています。

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#05

将来の展望についてDMM.make AKIBAが思い描く未来とは何だろうか。

今後、このDMM.make AKIBAがどのようになってほしいと思いますか?

福田さん

事業の継続をしてほしいと思っています。一般企業だと取り扱えない機材がDMM.make AKIBAには置いてあるので、今後もフル活用したい気持ちでいっぱいです。また機材だけでなくコミュニティに関しても、上下関係がないフラットな雰囲気というのが特徴で私にはあっているので、これからも属していきたいと思っています。さらに事業が大きくなりご卒業されている方々、それこそLOVOTつくった人たちともフラットにお話ができるコミュニティなので、今は有名な商品もここで生まれたと考えるととても価値あるコミュティーだと感じています。弊社のような若いスタートアップの会社は、自社で目標に向かって突っ走ることが多い中、こういうコミュニティが生み出す繋がりを活用することで間違った失敗を少なくできていると思うので、今後も継続してフラットな関係性をつくってもらえたら嬉しいと思っています。

木下さん

(自社ながら)ある意味、9年間もそういったコミュニティを維持できていることはすごいと思います。

福田さん

ほんと、そうですよね。

木下さん

モノづくりをしたい人はもちろん、コミュニティやその繋がりを上手く活用したい人にとってもとても良い環境だと思います。

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最後になりますが、福田さんが、これから起業を考えている人たちや既にDMM.make AKIBAを利用している方々に向けて、何かアドバイスや後押し、伝えたいことはありますか?

福田さん

会員さんへは「何か困ったらコミュマネに声かけるのが一番」と思っています。私自身もいつでも話しかけてくださいと思っていますが、初めはハードルが高いと思うので、まずはコミュマネへ。…と伝えたいです。私も最初は何もわからない状態でこのハードウェア業界に入りました。参入障壁が高いハードウェア業界でも少なからず生き残れているのはこの環境があったからと思っています。なのでアイデアベースで気軽に話しかけてください。それ以外にこれから起業を考えている方へは「まずは周囲の人に声掛けをしてみるといいと思う」と伝えたいです。ハードウェアでなくとも起業は何かと不安がたくさんあると思います。そんな時には私でもいいですし、何でも周囲の経験者にお話を聞くのがいいと思います。

これから入居者の方が増えてくると思いますが、たくさん増えるとコミュニティの秩序などが乱れたり、雰囲気が悪くなってしまう可能性はないでしょうか。

木下さん

懸念としてはあげられる点だと思いますが、DMM.make AKIBAが「9年間」築き上げてきた文化や雰囲気があるので、それに馴染む人が自ずと入ってきて残る場になると思います。今いるメンバーも全員が9年前からいた人ではありませんが、スタッフも会員さんも手を取り合ってやっているので、心配はしてないです。みなさんが築き上げてくれたものが、DMM.make AKIBAにはあります。

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木下瑠菜さんと福田慎也さん、取材メンバーの集合写真

この取材の中で見えてきたこと――。取材を経て、コワーキングスペースの利点だけでなく、DMM.make AKIBAにしかない強みも見えてきた。それは、「モノづくり」の根底にある「団結力」だ。取材前の9周年イベントで「GROOVE X」林さんは、「ここ(DMM.make AKIBA)の強みは、コミュニティの輪が拡がること。同業者や専門家と切磋琢磨し合える場があったから今がある」と語った。
 そしてこの取材を終えたのち、同社は2024年4時30日を持ってDMM.make AKIBAの運営を終了することを発表した。お二人の熱いお話をお伺いした後だけに、大変残念な決定ではあるものの、今後は、これまでの施設運営で培ってきたノウハウ・ネットワークを活かし、モノづくりに特化したコワーキングスペース開設・運営コンサルティングや、各種ワークショップ・イベント開催支援などの企業・自治体・教育機関向けのサービスをメインに提供していくようだ。「モノづくり」を生み出す空間(スペース)をどうやって見出すのかー。今後もDMM.make AKIBAの精神は「モノづくり」の中で生き続ける。

木下瑠菜さんと福田慎也さんの画像

木下 瑠菜 さん 写真左

「DMM.make AKIBA」広報担当

「DMM.make AKIBA」は、千代田区にあるコワーキングスペース。3Dプリンターなどのモノづくりに関する機材を多く取り揃えている。ハードウェアを中心に、ソフトウェアも開発可能。テックスタッフやコミュニティマネージャーが常駐しており、相談できる環境が整っている。

福田 慎也 さん 写真右

CreativePocket株式会社 代表取締役

「ぷにっとおててメモリー®」や「ベビパシャ®」を開発。「ぷにっとおててメモリー®」は、赤ちゃんの手形をゲルで作成し、手のぷにっと感を残すことができる。BabyTech® Awards 2023の記念・記録・思い出部門で大賞を受賞。「ベビパシャ®」は、スマートフォンを使うだけで赤ちゃんの目線で撮影でき、追尾機能も搭載している。BabyTech® Award Japan 2021の記念・記録部門 優秀賞を受賞。

取材・文 千代田区キャンパスコンソーシアム

  • 杉田 崚晟(二松学舎大学 文学部)
  • 高橋 彩夏(大妻女子大学 文学部)
  • 人見 海羽(大妻女子大学 社会情報学部)
  • 李 雨凝(共立女子大学 家政学部)